月が高くなり宴の終わりが近付くと、アスランの後ろの御簾がすっと上がった。
左大臣ネオが公達の前に姿を現した。
「いかがですか、今宵の宴は…」
その問いに多くの貴族は賞賛する。少しでも左大臣に取り入ろうと必死だ。
左大臣は上座にいる三人の皇子たちに列席の礼を述べた後、御簾の向こうを見渡して言った。
「お気に召す姫はいらっしゃいましたか…? 今宵は我が左大臣家に縁のある姫を集めました。逢瀬を望む姫がいましたら仰ってください」
左大臣家に縁がある姫…、それを聞いたアスランはいてもたってもいられず左大臣に言い寄る。
「左大臣…、戯れが過ぎますよ。一体どういうことですか…?」
眉を寄せたアスランの表情は厳しい。
「なぜここにカガリ姫がいるのですか?納得のいく説明を…」
「カガリ姫…? さぁ、何のことを仰っているのか…」
ふふ、と笑いを浮かべた左大臣にアスランは苛立つ。
左大臣ネオ…
あまり面識は無いが、策士という噂は聞いていた。何のためにカガリをさらったのか問い正したいが、簡単に口を割るとは思えない。
最後の姫が琴を弾き終わるのと同時に、アスランは立ち上がって仕切りの御簾を上げると宴の会場に足を踏み入れた。
そして、きゃあと驚きの声を上げる姫君たちの間をぬってカガリの元へ真っ直ぐに向かう。
その行動に隣にいたディアッカはぎょっとし、他の貴族も呆気にとられた。
無事に宴が終了してホッとしていたカガリも、突然のアスランの乱入に目を疑った。
「アスラン…?」
「カガリ大丈夫か?!ほんとに、どうしてここに・・・」
やっと探し当てた存在を慈しむようにアスランはカガリを腕の中に収めた。
左大臣家の侍女がこしらえたであろう香りがアスランに甘く届く。
その華やかすぎる香りを押し越え、頬を寄せるように近づけてやっと安堵感を覚える。
「良かった、無事で…」
「あ、アスラン・・・、ちょっ・・・みんな見てる、」
突然現れた第七皇子が、今宵一番の音色を響かせた姫を抱きしめている。
御簾の中にいる貴族は口を開け、ただ惚けている。ディアッカは、おいおい・・・と呟き両手を上げた。姫君たちは悔しそうにしている者もいれば、目の前の熱い抱擁にうっとりとしている者もいる。
皆の視線を浴びて困っているカガリにかまわずにアスランは腕の中の存在を確かめた。
「いいんだ、そんなこと・・・ どれだけ心配したか・・・」
「ご、ごめんっ」
「とりあえず帰ろう、キラも心配している」
ゆっくりと抱擁が解かれ、翡翠に見つめられたカガリは小さく頷いた。
「アスラン皇子」
いつの間にか左大臣が近くまで寄っていて、楽しそうに声を掛ける。
「今夜はもう遅い。侍女に案内させますので、お二人でゆっくり話してください。私も後から伺う・・・」
通されたのはカガリが左大臣家に連れてこられてから使っていた部屋だった。
質のいい調度品、煌びやかな衣が揃っていた。
さらわれてきたカガリにはそれなりの待遇が与えられていたようでアスランはほっとする。
「それにしても、一体どうして・・・」
朱色の燭台にも細かな模様が施されている。その近くにアスランは腰を落とし、カガリを引き寄せる。
「アスラン、わたし、ステラと間違えられたみたいだ」
「は・・・? すてら?」
「左大臣様は本当はステラが狙いだったみたいだ。・・・狙いっていうのは変だな、探してたというか・・・」
淡々と、まるで他人事のように語るカガリにアスランは深いため息をつく。
-こっちはどれだけ心配したか・・・
「カガリ・・・ 理由がどうであれ、君は連れさられたんだ。明日にでも左大臣家に追捕使を送る」
「えっ?!アウルとスティング、捕まっちゃうのか?!そんな・・・」
思いがけないアスランの発言にカガリはついアスランの袖を引っ張る。
乱暴に扱われたのは最初だけだ。根は悪くない。二人はカガリに優しく接してくれた。カガリを連れてきてひどい目にあったのは寧ろ二人の方だった。
「・・・アスラン、なんとか避けられないか?わたし何もされてないし、こんなに元気だし」
「カガリ、それは・・・」
二度とこういう事が起こらないよう、裁きはしっかりしておきたい。
人攫いは都では少なくない。一つでも見過ごせばまた新たな事件を呼び起こしてしまうかもしれない。
なにより、カガリの身を守る意味でも必要なのだ。
「わたしからもお願いしたい、アスラン皇子・・・」
ゆらりと蝋燭の光が揺れる。
左大臣ネオが姿を現した。
つづく
★
真相は次回で明らかになります。
全てを知ったアスランはあることと引き替えに左大臣の申し出を受け入れることになります。
で、安心した皇子はカガリ姫を…
きゃーー////
また二人の夜も書きたいなぁ、と思っています。
7日の夜にUPできたらステキです、一応目標…
ではでは、真相が知りたい、また裏が読みたい、という方はぽちっとお願いします。
キーワード:姫へまっしぐら!
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