ミリアリアとフレイは普段と違う親友の様子を気にかけていた。
「ねぇミリアリア、何かあったのかしら… カガリってば」
「わたしも心配で聞いてみたけど、何でもない…って言うだけで」
朝からカガリほとんど話さない。
何か思いつめている様子で明らかにおかしかった。
週に一度しか会わない教授でさえ、カガリの体調を危惧して退席を勧める。
呆けていたカガリは突然の指名に驚いて顔を上げる。
そして、慌てて立ち上がり退席を拒否した。
「いえっ…、大丈夫、です」
身体の痛みはまだ少し残っていたが、それよりも頭が混乱して何も手に着かない。
今日のノートは真っ白だった。
友人が心配してくれてるのも分かっているけれど、まだ事情を話す勇気がない。
『君が好きなんだ…』
熱い眼差しと共に贈られた言葉を昨日から何度思い出したか、分からない。
誰かにあんなふうに言われたのは初めてだった。
もちろん身体を奪われたのも初めてで…
『好きだから…』
そんな理由であんな行動をとるものなのか、第三者に聞いてみたらはっきりするかもしれない。
だけどカガリは思いとどまる。
男女の仲について疎いカガリでも分かる。
昨日のアスランの行為は「暴行」にあたる。
カガリの告発で、アスランがその罪に問われることになるかもしれない。
被害者のカガリは訴えても当然の立場にあるが、なぜかそんな気にはならなかった。
いつも品行方正な彼があんな行動をとるなんて、いまだ信じられない。
おぼろげな記憶の中で断片的に思い出す言葉がある。
『君がいけないんだ…』
『君がここにいたから…』
(なんで、わたしのせいなんだ… どうして…)
寝ずに考えても、講義中に頭を掻きむしっても答えは出てこない。
あと数分で、最後の講義が終わる。
カガリは覚悟を決めた。
……自分が考えても分からないなら、やはりアスラン本人に聞くしかない。
ごくりと息を飲みながらカガリはゆっくりとドアを開ける。
昨日と同じように、白衣の青年が机に座っていた。
「カガリ、やっぱり来たな…」
「そこから動くなっ!」
カガリはドアに背をつけたままアスランを制止する。
狭い部屋でまた襲われたらカガリに勝ち目はない。少し距離をとってアスランと話そう、そう決めていた。
「おまえ…、なんであんなこと、昨日も…、おとといだって」
震える声で尋ねたカガリに対して、アスランは表情を一切変えずに淡々と答えた。
「何度も言っただろう。君が好きだから、だ」
ドアに身を寄せて、明らかに自分を警戒しているカガリ。
今日は露出の少ないカットソーと、パンツ姿だった。その格好が身を守るためだと分かり、それは当然なのだが、なぜか少し悲しくなる。
「大学で初めて見た時から…、惹かれていた。店で話して、ますます好きになった」
「だからって… あんなことっ! アスランは優しくて、気もきくし、大学(ここ)でも評判いいのに。どうして…」
純真なカガリに、独占欲や男の性なんて分かるはずがない。
湧き上がるこの情欲を理解してもらうのはおおよそ無理だ。
今だって強く抱きしめて、カガリの存在を確かめたいと思っている。
「…君が好きなんだ。理由はそれだけだ。どうする?俺を訴える?」
アスランの口調には余裕があったが、カガリを見つめる瞳が切なげに揺れる。
しばらく沈黙が続いて、カガリが重い口を開いた。
「もう何もしない、と誓うなら、…昨日のことは誰にも言わない」
「………」
「アスランはいい奴だ… だから、訴えるなんて嫌だ。でも、もうあんなことは二度とするな…」
顔を伏せているカガリの表情は分からない。しかし、カガリの声は震えて、許しの言葉が懇願にも聞こえた。
アスランはちくりと罪悪感を覚える。
「わかった…、もう何もしない」
昨日の出来事に関して、アスランも自制心の無さを悔やんでいた。そんな自分を戒めるようにカガリに応える。
焦ってカガリを求めてしまった代償がそれで済むなら…。
「薬…」
そう呟いて、ドアに張り付いたままのカガリが右手を差し出す。
「実験のバイト、一度引き受けたからにはちゃんとやる…」
意外なカガリの申し出にアスランは呆気にとられた。
「あんなことがあったのに…?」
「あれと、バイトの話は別だろっ!薬飲んだら廊下にいるから、時間になったら呼べよな!」
さすがにまた二人きりというのは怖い。時間内に他の外的要因を受けなければいいのなら、廊下にいてもいいはずだ。
そんなふうにカガリが言うと思ってもいなかったアスランは、机の引き出しから錠剤の入ったビンと小さな匙のようなものを取り出した。
「なんだそれ…」
そんなもの昨日は無かった…。
そう言いたげなカガリにアスランは自ら暴露する。カガリはまだあのキスが実験のためだったと思っているらしい。
「本当はこれで実験前の唾液をとるんだ。だから近づくが、いいか…?」
「へ、変なことしたら大声出して逃げるからな!」
ゆっくりとアスランが近付いてくる。昨日の記憶の映像と重なって恐怖心が広がる。
「何もしない。約束したばかりだろ? 口を少し開けて…」
カガリは怯えながら小さく口を開ける。
アスランは持っていた器具をカガリの舌にちょんと置いた。唾液を採る、というよりは先端を触れさせただけだ。
「…もういいよ」
「え、これでいいのか?」
「物足りないなら…」
「わぁぁっ!いい、もういいっ…」
顔を寄せるアスランから素早く錠剤を奪い取って、カガリは急いでドアを開けた。
「わたしちゃんと廊下にいるからな!呼べよ!」
そう言って顔を赤くして飛び出したカガリがたまらなく可愛いと思う。
どこまで純真なんだろう。
汚れのない心の持ち主だと知ってはいたが、これほどだと思わなかった。
しばらくは手を出さずにこうした言葉のやりとりだけでも十分楽しめるかもしれない…
アスランは笑いながらそう思った。
つづく
★
げー、キモアス…
彼なりに反省はしているようです。
でもそんな反省も長くは続かず…
くふふ(←キモ…
先日のあとがきで拍手をみなさまにねだりました。
ありがたいコメントいただいて今は満タンです♪
ありがとうございましたv
(コメントにお名前がない方にはレスしていません、ご了承ください。え、偉そうにすみませんっ)
で、毎日拍手を求めるわけにもいかないのですが、心優しい方は今日もぽちっとお願いします☆
キーワード:キモアス
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