肌に感じる温もりはいつまでたっても落ち着かない。
「カガリ起きてる・・?」
「う、うん・・・ 」
「寝ればいいだろ。邪魔しないから・・」
そう言ってアスランはカガリの首筋にキスを落とした。
ぴくん、とカガリの体が反応する。
「そういうことするから寝られないんだっ!・・」
「気にすることないのに・・」
アスランの息がカガリの肩にかかる。
何度か肌を重ねて、明け方になってやっと求められなくなった。
それでもずっとアスランはカガリを抱きしめて離さなかった。
普段は寝付きのいいカガリでもさすがに肌が触れ合っている状態で眠れるはずもなく、うとうとと朝を迎えた。
「だいぶ明るくなったな。」
障子の向こうから光が射して、部屋と照らし始めた。
明るくなって体を見られるのが恥ずかしいのか、カガリはそろりと布団に手を伸ばす。
「隠さなくてもいいのに・・」
「やだよっ、恥ずかしいっ!」
「そのうち慣れるよ。」
「ば、ばかっ・・・んっ・」
布団を肩まで上げて自分から少し離れたカガリをアスランが引き寄せる。
ふいに重ねられた口付けは夜の激しいものとは違って、カガリを愛おしむような優しいものだった。
名残惜しそうに口唇を離すと、アスランは直衣を身につけた。
「・・俺は先に行くけど・・。すぐにルナが来るだろうから。」
「うん・・」
「また会いに来る。」
まだ横になっているカガリにもう一度キスをして、アスランは静かに寝所から出て行った。
ぬくもりが離れてカガリは寂しいと思ったが、このまま抱き合っている所へ侍女たちが来ては死ぬほど恥ずかしい。
寝不足の目をこすって自分も衣を身にまとうと、そっと障子を開けた。
好きな人と一緒に朝を迎えた後は世界が違って見える・・・
カガリはいつか耳にした言葉を思い出した。
そっと庭に出ると、朝露で濡れて光っている草花を、まだ薄く霞がかった空を見た。
ふわふわと揺れる感覚の中でいつもの庭は幻想的に見えた。
ふいに昨夜アスランが耳元でささやいた言葉が蘇る。
アスランに一晩中触れられた肌はまだあの温もりを覚えている。
優しかった温もりは徐々に激しくなって・・
(わーわー!)
カガリは脳裏によみがえる記憶を手で掻き消した。
きっと自分の顔は真っ赤で、このままだとルナにからかわれるに違いない。
アスランが昨夜泊まったことは、この屋敷の誰もが知っていることだが、カガリはなんとなく隠したい気持ちになった。
兄のキラがこのことを知ったらなんて思うだろう。
少し不安になりながら、カガリは違和感のある体をいたわるようにゆっくりと立った。
その時、後ろからガサッと音がした。
「っ・・」
振り向いたカガリは声を上げる間もなかった。
何か布のようなもので口を塞がれると、突然体が宙に浮いた。
「んーー!」
叫ぼうとしたカガリを少年が覗いた。
「少しおとなしくしてろよな。ネオの所に連れてってやるよ。」
「アウル・・ 無駄口はよせ。早く行くぞ。」
カガリを担いでいる長身の少年が急かすと、水色の髪の少年は軽やかに垣根を越えた。
長身の少年もそれに続く。
カガリはじたばたと足を動かして抵抗したが、長身の少年はあっさりと垣根を越えた。
母屋では、ルナに勧められてアスランとシンが朝食をとっていた。
粥をすすりながらシンはアスランをちらりと見る。
幼少の頃から仕えているが、こんなご機嫌の主人をシンは見たことがなかった。
口元は緩みっぱなしで、そのうち鼻歌でも聞こえてきそうな様子だ。
「アスラン様、カガリ姫と一緒に召し上がらなくていいのですか・・?」
絶対に昼までは寝所から出てこないと予想していたのに、意外にもアスランは一人で起きてきた。
「いいんだ。カガリは疲れているだろうから、休ませてあげないと。」
「・・・・・」
「なんだ?シン。」
「良かったですね・・ほんとに!」
シンは呆れて多少の嫌味を込めてそう言った。
しかしアスランは満面の笑みをシンに返す。
(今日は何を言っても怒らないな、この人・・)
はぁ、と息をついてシンが止めていた箸を動かすと、ドカドカとけたたましい音が母屋に響いた。
誰かが猛烈な勢いでこちらに向かってくるようだ。
「アスランッ!!!!!」
荒い息を吐いて、屋敷の主人キラが現れた。
叫んだキラはアスランをぎっと睨むと、きみって人はぁ~と言いながら掴み寄った。
大和家のキラといえば、温和で優しい人物だ。
それが今は鬼の形相をしている。
シンはあまりの変わりように驚き、おののいた。
しかし、胸ぐらを掴まれた自分の主人は平然としている。
「あぁ、キラ。お帰り。遅かったな。」
「ア~ス~ラぁ~ン~、君って人はぁ・・・」
ぎりぎりと歯を鳴らしながら、キラはアスランを睨む。
その視線を受けてもアスランはにこにこと笑うだけだ。
「僕のカガリに何をしたのさっ!」
「何をって・・」
アスランがカガリに何をしたのかは、屋敷の誰もが知っている。
姫の元に貴族が泊まる、というのはそういうことだ。
「まだ君たち婚約中でしょ!!あれほど言ったのに!!」
「俺は同意した覚えはない。屋敷を開けたおまえが悪い。」
「アスラン~~~」
部屋にキラの怒声が響いた。
いたたまれなくなったシンはこそこそと部屋を出た。
すると、通路を進むルナがきょろきょろと辺りを見回している。
「ルナ、何やってるんだ?」
「あ、シン! カガリ姫、こっちに来なかった?」
「え、来てないけど・・ 」
「そう・・ 寝所にいないのよ。恥ずかしくてどこかに隠れてるのかしら?」
ルナのその様子にアスランも気づいたようで、キラに掴まれながら傍に来る。
「アスラン様、カガリ姫が寝所にいなくて・・ご自分の部屋にもいないし、もしかしてこちらに来たのかと思って・・」
「いや、こちらには来ていない。君が来ることを伝えてあるから、他に行くはずがないが・・」
カガリがいくらお転婆だからといって、こんな朝にどこかに行くとは考えにくい。
アスランは不思議に思った。
ルナの報告を受けてから、キラは屋敷にいる者全員にカガリの行方を捜させた。
しかし、屋敷のどこにもカガリの姿はどこにもなかった。
アスランもカガリの行きそうな場所を探したが、まばゆい金の姫を見つけられなかった。
そして、もう一度、寝所に戻った。
部屋はそのままでカガリの衣だけが無くなっている。
カガリの体を覆っていた布団はすでに温かみを失っていた。
アスランは一抹の不安を感じた。
「カガリ・・・」
ふと呟いたアスランの耳にシンの声が入った。
庭にいたシンが何かを見つけたらしい。
アスランが駆け寄ると、シンが小さな簪(かんざし)を手にしていた。
細工で埋め込まれている翡翠がきらりと光る。
そして地面には履き物がひとつだけ残されていた。
「これはカガリの・・」
「アスラン様、こっちに!」
庭の奥からルナが叫んだ。
アスランとシンが駆けつけると、綺麗に刈られた垣根が一カ所だけ乱れていた。
それは侵入者がいたことを示すものだった。
「カガリっ!」
アスランはシンから受け取った簪をぎゅっと掴むと、垣根の向こうの通りを見渡した。
人はまばらで、しんと静まりかえっている。
カガリの姿はどこにもなかった・・・
★
甘い雰囲気もつかの間。
姫がさらわれてしまいました。
アスラン心臓ばくばくしてそう。
愛する姫がいなくなった!
さて、どうなるのでしょう・・
あ、そういえば『西国の姫君』出てないですね。
ステラはまだお休み中~
昨晩はシンが添い寝をしてます♪
こっちもラブラブですね。
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キーワード:姫の行方
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