CE.77
代表のカガリは友好国の巡見のためオーブを離れている。
アスランは兵舎の廊下を歩きながら、まだ8日目・・・と呟いた。
多忙なカガリとの二人の時間は相変わらず少なかったが、それでも行政府かアスハ邸にカガリがいると思えばアスランは安心だった。
3年前―
アスランが准将に昇格して間もなく、オーブ軍の精鋭として諸国に赴いたことがあった。一週間ぶりにオーブに帰ったアスランは空港からアスハ邸に直行した。
早朝でメイドたちのほとんどはまだ寝ていたが、アスランがカガリの私室に行くのを止める者はいなかった。アスハ邸ではそれはいつしか暗黙の了解になっていた。
アスランが部屋に入るとカガリは静かな寝息をたてていた。
ベットの脇に腰を掛けて、カガリの顔にかかっていた金色の髪を払うと血色のいい頬が現れた。思わずアスランは頬に口づけをした。
ん・・、と僅かな声を上げて横向きだったカガリの体が少し動いた。
(な・・・)
カガリの肩がむき出しになっていて、アスランは驚いた。そっとシーツをずらすと、胸から下も白い肌が広がっていた。
すやすやと寝ているカガリはなぜか裸だった。
そして、首筋と胸元にはっきりと紅い刻印が残っていた・・・。
『暑かったんだ・・・だから、服を脱いで寝た。』
目覚めたカガリはバツが悪そうにそう言った。
今回は3年前の逆。アスランがオーブに残って、カガリは他国に赴いている。
前回はアスハ邸での出来事だったため、憤る気持ちをどうにか抑えられた。警備の敷かれているアスハ邸に賊が侵入するのは不可能だし、メイドたちに会わずにカガリの部屋に行けるのはアスラン一人だけだった。
カガリが裸で寝ていたのは暑かったからで、紅い刻印は虫に刺されたもの、それでどうにか納得をしたつもりだった。
しかし、今回は違う。カガリには護衛がついているとはいえ、心許ない。オーブを手に入れるため、美しい地の女神を手に入れるために、カガリに求婚してくる諸国の権力者たちは少なくない。
アスランは部屋に入ると深く息をついてソファに深く座った。サイドテーブルにある写真立てを手に取る。
3年前、出発するアスランと、代表として見送るカガリが写っている写真だった。
二人で写っている写真が無い、と知ったキラがわざわざプラントから送ってくれた、当時のニュース記事に使われた写真。
アスランはソファに横になるとじっとその写真を見つめた。
(昔は離れていても平気だったのにな・・)
大戦後にカガリと肌を重ねて、アスランは己の独占欲を押さえられなくなった。
カガリを信じていないわけではないのに、どうしても醜い感情が消えてくれない。
あの時、カガリに何があったのか・・・
離れていることがこんなにも不安になるのは、3年前のあのできごとが原因だとはっきり分かった。
アスランは苦笑しながらも叶わない願いを心に描き、まぶたを閉じた。
(あの時カガリに何があったのか、知りたい・・。)
*************
窓から差し込む月の光がちょうどカガリの顔を照らしていた。
もぞもぞとベットから起き上がり、遮光性のカーテンを閉めた。
いつもならどんなに部屋が明るくてもすぐに寝付く。
それなのにここ何日かはぐっすりと眠れなかった。
目を閉じてしばらくするとすぐに目が覚めてしまう。意識が戻って最初に想うのは決まって傍にいないアスランのことだった。
(普段も一緒に寝てる訳じゃないのに。)
アスランがカガリを包むように抱きながら寝るのは月に1回あるか無いか。
5日前、アスランは多忙なはずなのにそれを叶えてくれた。
『一週間は確実に会えないから・・』
出発の準備で忙しいはずなのに深夜にこっそりと来て、早朝にはもういなくなっていた。その数時間後、空港で会ったときに少し寝不足の顔をお互いに笑った。誰にも分からないように微笑んだ程度だったけれど、その時のアスランの笑った顔が頭から離れない。
カガリはいつもは押し殺している我が儘を心の中で叫んだ。
アスランに会いたい、と・・・。
アスランは馴染みのあるフローリングの床をゆっくりと進んだ。気をつけないと足音が建物中に響いてしまう。
(ここは、カガリの部屋か・・?)
兵舎の自室にいたはずのアスランは、いつの間にかカガリの部屋に来ていた。
カーテンの隙間からわずかに入る月光で部屋の中の様子はなんとか把握できた。
アスランは不思議に思う。確かにカガリの部屋に間違いないのだが、微妙に様子が違っている。テーブルの上の端末はなぜか旧式のものだし、壁に掛かっている写真も減っているような気がした。
不思議に思いながらも暗闇の中をアスランはまっすぐ進んだ。
ベットには白いシーツが盛り上がって、僅かに金色が見えた。
すーすーと寝息が聞こえてアスランの口元は自然と緩んだ。
片手を頭の上に置いてカガリは仰向けになって寝ていた。少し開いた口がなんとも可愛らしくあどけない寝顔がいつものカガリより幼く見えた。
アスランは起こすのはかわいそうだと思いながらも、名を呼んだ。
「カガリ・・」
ぴくっとカガリの耳が動く。まるで動物のようにアスランの声に反応した。
「カガリ・・」
再び呼んだアスランの声に今度はまぶたがぴくりと動いた。ゆっくりと開いた瞳の前にアスランは顔を近づけた。
「あす・・?」
「カガリ、ごめん・・」
「なんで・・あやまるんだ・・?」
瞳をうっすらと開けたカガリはまだ半分眠りの世界にいるらしい。ゆっくりと起き上がって目をこすった。
「寝ていたのに、起こしてしまったから・・」
んー、と返事のような声を出したカガリは子どものようだ。アスランはカガリの髪をなでた。そしてカガリの後頭部に手を添えて自分の方に寄せた。軽く閉じた唇に自分のを重ねるとついばむようにキスをした。
「・・ん・・」
力の入っていない唇は舌の侵入を軽く許した。少し水気を失ったカガリの口内に舌を絡ませると、迷いながらもカガリの舌がそれに応える。
寝ぼけているせいか、カガリの舌の動きがたどたどしくアスランは少し虐めたくなった。
後頭部に添えた手に力を入れて唇を強く押しつけた。舌先でカガリの唇をなぞったり、口内を貪るように舌を絡ませた。
「・・んぅっ・・んー・・」
息ができなくて苦しいのかカガリがアスランの胸を軽く叩いた。
はっとしてアスランは唇を離す。カガリの唇にアスランの唾液がついていてそれが妖しく光った。カガリのほんのりと上気した頬と、とろんとした瞳は妖艶で、アスランの体の熱を呼び起こした。
「カガリは・・かわいいな・・」
弾力のある頬に手を添えると、本当に子どもの頬に手を当ててるかと思う。長い睫に縁取られた瞳がアスランをじっと見つめる。
見つめられたアスランはくらくらとめまいを感じた。政務に励むカガリのまなざしは揺るぎない意志を表している。それはかつてのオーブの獅子ウズミの瞳にもあったものだ。
今、目の前のカガリは潤んだ瞳でアスランを捉えている。無言で誘っているかのように・・・。
「カガリ・・」
アスランはカガリの首筋に舌を這わせた。そしてある場所で吸い付くようにキスを落とす。そしてすぐにまた舌を這わす。少しずつ降下させて首筋につけた刻印と同じように胸元にもそれを残した。
「・・っ・・ぅん・・」
カガリは一瞬痛みを感じたがすぐにアスランの熱い舌の感触に体を震わせた。
アスランの舌が肌をなぞる度にぞくぞくと体の芯が反応する。
力の抜けたカガリの体をアスランはそっと横にするとカガリの上に体を重ねた。
(後編)へつづく・・・
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