細長く狭い空間に窓から紅く染まった日が射す。
奥の椅子に座って、資料を見ながら何かをノートに書き留めているアスランをカガリはじっと眺めていた。
カガリが小さな錠剤を飲んでから数分が過ぎたが、これといって体に変化は感じられない。
ミリアリアの言うとおり、人体にそれほど影響がなく安全なものなんだろう。
すっかり安心したカガリは集中しているアスランに悪いと思いながらも声を掛けた。
「なぁ、アスラン・・・」
「ん・・」
手をとめて、カガリの方に振り向いたアスランの顔は艶やかだった。
研究用の白衣を纏い細い縁の眼鏡を掛けて、いかにも理学系の学生のアスランは、バイト時の格好よりも落ち着いた雰囲気がする。
好き嫌いの感情ではなくて、端正な顔と理知を感じさせるアスランの姿に素直に惹かれるのが分かった。
これまで気がつかなかったけれど、この容姿なら大学で有名人だということも納得ができる・・・
「これってなんの実験なんだ?」
「あぁ、ホルモンのシグナル系の撹乱が生体の中でどのように起こるか。内分泌機能だけでなく免疫機能にも関係しているそれを・・・」
アスランが聞かれた質問に答えると、まもなくカガリの顔が歪んだ。
文系のカガリには、スラスラと答えるアスランの話がまったく分からない。
カガリの表情からそれを察したアスランは笑いながら言った。
「簡単に言えば、ホルモンの変化を調べる実験だ。」
「ふぅん・・、なんか難しそうだな。」
「時間がきたらカガリの体液を搾取させてもらうから。」
「た、体液・・・?!」
おとなしく座っていたカガリは少し驚いて、用意されたパイプ椅子がガタッと音を立てた。
その音に逆にアスランが驚いて言葉を言い換えた。
「唾液、のことだけど・・」
「あ!そか、うん・・・」
カガリは自分でも頬が熱くなるのを感じた。
またあの場面を思い出してしまった。
冷たいロッカーに背を付けた自分。その恥ずかしい所にアスランの顔があって・・・
(わぁぁぁ、なにをかんがえて・・・)
顔を伏せて軽く頭を振ったカガリにアスランの声が響く。
「そうえいば・・・」
「ん?」
ふと顔を上げたカガリの目の前にいつの間にかアスランが立っていた。
「実験前のものも必要だったんだ、忘れてた」
「えっ・・・まだ取ってないじゃないか」
薬を飲む前にしなければいけないことがあったと聞かされてカガリはうろたえた。
もう自分は薬を取り入れてしまった。その前の状態の唾液をとるのはもう無理だ。
ディアッカが、‘まじめな実験’と言っていたのにすでに手順を間違えている。
「大丈夫だ」
カガリの不安をよそにアスランは平然としていた。実験にミスがあった場合困るのはアスランの方なのに・・・
「今からでも遅くない」
「え・・いいのか、そんないい加減な」
そんないい加減なことでいいのか、真面目な取り組みじゃなかったのか。
カガリがアスランに問おうとすると、フッと視界が暗くなった。
「え・・」
急な接近に驚いたカガリは無意識に身を引いたが、後頭部に置かれた大きな手がそれを許さない。
目を開けたままのカガリにアスランの顔が迫り、唇に柔らかいものが触れた。
あ、と漏らした声も飲み込むように唇があてがわれ、カガリが坑がう素振りを見せると、さらに強く押し込まれた。
「んぅ・・・ぁ・・・」
生ぬるいものがカガリの口内に侵入して、味わうように一周する。その感触がぞわぞわとカガリの体を震わせた。
ふっと口唇が離れる。
「・・少し時間がずれたけど、まあいいだろう」
離れてもなおアスランの顔はすぐ傍にあって、じっとカガリを捉えている。
凝視できないカガリが視線を落とすと、ねっとりと唾液で濡れた唇が目に飛び込んだ。
今、自分に触れたのはこれ・・?
「あ・・いま・・キス・・」
確かに今、唇を合わせる行為をされたのだ。
けれど、それがいわゆるキスなのか、実験のための搾取なのか、カガリには分からない。
自信のない質問に、アスランはわざと答えずに、瞬きも忘れるくらい困惑しているカガリの頬に手を添えた。
いつもより少し紅潮している頬に優しく触れ、指先だけ肌に残し降下させる。顎に沿って自然に這わすとわずかにカガリが反応した。
「ぁっ・・ゃ・」
ぴくりと反応したカガリは頼りない表情でアスランを見つめる。
顎やその下の首に触れるアスランの動きに小さく声を出して、軽く体を震わす。
アスランは待ちわびたその反応に喜びながらその感情を悟られないように優しく微笑んだ。
「カガリ・・どうした?」
「ぁ、うん・・なんか変・・」
「変?気分が悪いのか・・?」
「ちが・・、なんかぼうっとする・・ぁ・・」
さわさわと触れるアスランの指に逃れるようにカガリは仰け反った。
しかし、きゅっと目を閉じて体をよじらせるカガリからアスランの手は離れない。
親指を顎から唇に這わせ、残りの指を髪で隠れている耳下の肌に忍び込ませる。
「ふぁ・・ゃ・・ハァ」
ふるふると頭を揺らして逃れようとはしているが、その動きはたどたどしい。
実際、カガリは、自分に触れるアスランの手が嫌なのではなく、異常なほどに感じる刺激におののいているのだ。
アスランが自分にした口付けがキスなのか、実験のためなのか考えようとしているのに・・・
思考がうまくまとまらない。
体中の神経がおざなりになってふわふわとカガリを持ち上げる。
ただアスランが触れる部分が異常に反応して、体中に刺激を広げる。
「カガリ、嬉しいよ・・そんな可愛い声出してくれて・・」
「ぃやあ・・・あふ・」
いつまでも触れてくる指が与える、異常な刺激に耐えられなくなって、カガリはぱしっとアスランの腕を払った。
本人は精一杯の力を込めたつもりだが、弱々しく上げられた手は腕に当たっただけでそのままずるりと落ちる。
アスランは膝に落ちた手を掴むと腕を体の脇に移動させ空いたカガリの上体に顔を近づけた。
首に触れている右手に少し力を込めて、顎を浮かせる。現れた白い首筋に近づき、ちゅ、と口付けを落とすと、途端にぴくっとカガリが反応を見せる。
ハァハァと荒くなまめかしい吐息がアスランの耳をくすぐった。
瞬間、欲望の堰が崩れ、優しく口付けを落とした肌に唇を強く押し当てて、そして吸いついた。
「いっ・・」
きっと紅い痕が強く残っただろう・・そう思いながら、次なる箇所へ移る。
アスランはカガリの首筋に唇と舌を交互に這わせ、余すところ無く舐めとった。
ところどころに濃い痕を残しながら・・・
「はぁっ・・やぁっ!・・んぅ」
それまでより明らかに強い刺激から逃れようと椅子の上でカガリは暴れた。
しかしアスランの体がそれを許さない。所々を押さえつけられて、動きを封じられていた。
それでもこの未知なる感覚からは逃れたい。熱いものが首筋に触れ、アスランの体の熱を服越しに感じて、おかしくなってしまいそうだ。
「ひぁ、ん・やあっ・・」
「カガリ・・」
涙を潤ませ逃れようとする相手の名をアスランは熱っぽく呼んだ。
大学でもカガリとの接点が欲しくて、実験を教授にもちかけた。
モニターの話は、ディアッカを通じてすぐにミリアリア・ハウに通じると思った。
おそらく健康には自信のあるカガリを誘うだろう。
そして、密かにすり替えた薬を与えて、カガリに快楽を味わせる。3日間それを続けて、カガリが受け入れてくれれば、最後に自分の欲望を満たす・・
そのつもりだった。
しかし、思った以上にカガリの吐息は甘く、耳に打ちつけ、アスランの熱をどんどん高めていく。
昨日、バイト先のロッカールームで聞いた戸惑った甘い声もたまらなかった。が、もだえるように声を出して震えるカガリは予想以上にアスランの熱を煽る。
膝を立ててカガリにのし掛かった状態だったアスランはカガリから体を離した。
少し離れないとさすがにまずい、そう思った。
「あ・・・」
薬のせいでまともな意識が残ってないカガリはぽやっとアスランを見つめる。
離れてしまったアスランにすがるような虚ろな目・・
アスランの心臓が大きく跳ねる。
体を離してもそんな瞳で見つめられてはたまらない。すでに熱をもった体の芯がドクドクと音を立てた。
「カガリ、そんな瞳で見るな。」
「・・あす・ら・・ん」
「・・・・・」
アスランは小さく溜息すると、カガリの両脇に手を入れて、軽々と持ち上げるとくるりと向きを変え窓辺にあった机の上に乗せる。
腰を落としたカガリは足がつかない机の高さにおびえた。
「・っ!・・な・に・・」
「もう抑えがきかない、君がいけないんだ・・」
アスランは机上の資料やノートを乱暴に払って、カガリの上体を押し倒す。
本やペンがバサバサと音をたてて落ちたが、アスランの耳には入らない。
込み上げてくる欲望に従って、カガリの体をまさぐった。
★
え・・・
爽やかに黒く・・
あれ?
強姦・・
まあいいや。自分色に染めちゃってください、ザラさん。
キーワードが思い浮かばないので、読者さまに委ねます。
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