「急ごう・・」
正常な光が戻った翡翠に見つめられて、カガリは小さく頷いた。
真っ暗な部屋から通路の光が射し込み、思わず目を細めた。
大きな手に引っ張られて、足音の無い方へ進む。
「セキュリティは少しいじってあるから、まだ大丈夫だ。」
逃げ切れないのではないか、というカガリの心配にアスランは笑みで返した。
ピーピーと何かの機械音がする。
アスランは胸のポケットからそれを探ると端末の光を確認して、再び微笑んだ。
「ニコルからだ。人質になっていた彼らはもう建物の外に出た。」
「シンたち・・・」
自分の命に替えても助け出したい3人が無事だった。
カガリは胸をなで下ろす。
同時に、この男はどうしてここまでしてくれるのだろうという疑問が浮かんだ。
しかし、それをアスランに聞くのは愚問だと思う。
『君がいなければ、生きていけない・・』
そう言って強く抱きしめてくれた、その温かさを自分も受け入れた。
自分を愛してくれた父親と、共に育った3人以外から与えられる愛とは違う何か・・
カガリの瞳からまた涙がこぼれる。
突き進んだ通路の先には無情にもシャッターが降りていた。
「くそっ!」
アスランが拳で扉を叩く。そんなことで開くことはないと彼にも分かっているはずだ。
カガリも脱出口がないかと辺りを探る。通気口はあるがとても人間が入れそうな大きさではなかった。
「仕方がない、戻ろう・・」
「うん・・」
アスランがカガリの手を取って、来た道を戻ろうとすると、そちらから何人かの足音が聞こえた。
「アスランっ、見つけたぞ・・」
「イザーク・・」
数人の部下を引き連れたイザークが通路に姿を現して、にやりと不気味な笑みを浮かべる。
「貴様、裏切るつもりか・・?」
「・・・裏切るもなにも、組織に忠誠を誓った覚えは無い。」
「フンッ、おまえの父親の組織だろう。・・・まぁ、いい。貴様がどこに行こうが、どう死のうが俺には興味がない。消えてくれればせいせいする。」
部下の銃口が二人に向けられる。
イザークが近寄って、カガリの腕を掴んでアスランから引き離した。
「いやだっ・放せっ・」
「カガリっ!」
カガリを部下に引き渡すと、イザークは手にした銃をアスランの喉元にピタッと宛てた。
「まさか貴様が女に溺れるとはな・・ 安心しろ。アスハの娘は殺さないさ、すべて聞き出すまではな・・」
「くっ・・」
優越に満ちたイザークの表情。
このままここで殺されるのだろうか。
自分は死んでもかまわない。
それでもカガリだけはなんとか逃がしてやりたい、そう思った。
アスランの視線が、イザークの後ろにいるカガリへと移る。
(カガリ・・?!)
部下の男に捕らわれていたはずのカガリはいつの間にか解放されていた。
そして男達の瞳からは精気が失われていた。
銃を手にしたまま、ぼうっと立ちすくみ、カガリがイザークに近寄るのを止めようともしていない。
「・なんだ・」
イザークが静かになった背後を不振に思って振り向く。
近寄っていたカガリは表情を変えずに、イザークの唇に自分のを重ねた。
「なっ・・!?」
イザークは一瞬目を丸くしたが、まもなく部下達と同じ虚ろな瞳になる。
ゆっくりと唇を離したカガリは相手の名を優しく呼んだ。
「・・イザーク、」
ぴくんとイザークの頬が動く。
「わたしを・・・わたしとアスランを逃がしてくれ。」
カガリの言葉に頷いたイザークは、アスランに向けていた銃口を下げ、閉まったシャッターの脇に近づく。
そして、壁の解除装置らしきボックスのキーを打ち込む。
まもなく通路を遮断していたシャッターがゆっくりと上がった。
つづく
★
んー、カガリは逃げるためにイザーク達を操るんですが、それを見ていたザラさんの嫉妬にまったく気づいていません。
えぇ、アスランに嫉妬してもらうために出てきたイザークですから!
(ごめんよ、イザーク・・・)
次回は、嫉妬に狂うアスランと、逃げて幸せになる二人を書きたいです。
ではでは。
ちょっと不調なので、感想が怖いですが(笑)
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キーワード: アスラン嫉妬
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