「おいし~!」
「うん!このふんわり感がたまらないわね。」
クラシックな店内で2人の女子大生が感嘆の声を上げる。
デザートのパンケーキを頬ばって幸せそうな表情を浮かべた。
「だろ?!わたしなんて毎日食べてるんだ!」
テーブルに座っている二人に、ふふん、と鼻を鳴らす可愛らしい店員がいた。
トレーを胸に抱えてにこにこと笑っている。
「そんなに食べてると太るわよ…?」
女子大生のうちの1人、フレイは店員の脇腹をぎゅっと掴んだ。
突然脇を触られた店員のコは、ひゃ!と鳴き声を上げた。
「フレイ!な、なにするんだよ~」
「ふーん、カガリ、毎日食べてるわりにはあんまりお肉ついてないわねー」
「まあな。筋トレしてるからな!」
このレストランでバイトを始めてから、まかないで出される料理の美味しさについ食べ過ぎている。
加えて、バイトをするきっかけとなった甘いシロップがたっぷりかかったパンケーキを毎日味わっている。
甘い誘惑に逆らうことはしないけれど、食べた分は運動で消費する。
これは昔からカガリの持論だった。
親友2人のやり取りを微笑ましく見ていたミリアリアは、二口目のパンケーキを口に運ぼうとして、はっとした。
「ね、ねぇカガリ。あれ… アスラン・ザラじゃない?」
視線の先にはにこやかな笑顔で料理を給仕する店員の姿があった。
その端正な容姿と、理学部での優秀な成績のため、大学内で彼を知らない者はいない。
構内ではいつもクールな印象を受ける学生が、ウエイターとして微笑んでいる姿がミリアリアには信じられなかった。
フレイも、その名を聞いてミリアリアの視線の先に目をやった。
「ん?あ、あぁ。この前バイトで入ったんだ。アスラン。」
「“アスラン”って、呼んでるの?」
「あぁ、アスランがそう呼べって・・。」
“ザラ先輩”とはじめに呼んだカガリに、アスランはにっこり笑って言ったのだ。
『アスラン、でいいよ。ここでは君の方が先輩なんだし。』と・・・
フレイとミリアリアは顔を合わせた。
あのアスラン・ザラを呼び捨てにするなんて・・・
「ありがとな。また来てくれよな。」
バイト先に来てくれた友人をカガリは店の外に出て見送った。
店内では当たり前のウエイトレス姿が、外では少し恥ずかしく思ったのかすぐに店の中に戻っていった。
その様子を見ていたフレイとミリアリアはぷっと笑う。
「カガリってほんと可愛いわね。バイトも頑張ってるみたいだし・・・」
「それにしても・・ アスラン・ザラは意外だったわ。みんな知ったらこの店に殺到するんじゃない?」
「そうよ!カガリってばもっと早く教えてくれれば良かったのに・・」
「あのコ、そういうことには鈍いから・・」
大学内の有名人が同じバイト先なのだからもっと浮かれてもいいはず。アスラン・ザラに憧れる女子は山ほどいるのだからもっと騒いでもいいはずなのに・・・。
レストラン『プレシャス』は夜10時で店を閉めた。
店内の片付けを済ませたカガリはスタッフルームへと向かう。
「お疲れ。」
後ろから声を掛けたのはアスランだった。
さきほどの客に対するものとは違う、柔らかな笑みを向けられて、カガリは一瞬目を奪われた。
「うん・・お疲れ。今日も忙しかったな。あっ、フォローしてくれてありがと。」
オーダーが集中してカガリが慌てていると、アスランはさりげなく手伝ってくれる。自分だって忙しいはずなのに・・・
「あぁ、あれくらい当たり前だ。俺が入りたての頃にカガリにカバーしてもらっただろ?!」
そう言ってアスランは微笑みながら、後ろからドアノブに手を伸ばした。
どうぞ、と促されてカガリはスッタフルームに入る。
「うん・・・」
アスランが言うように、カガリの方が先にバイトを始めた。
でもすぐにアスランが入ってきて、その差は一週間ほど。
少し先輩のカガリがアスランに仕事を教えたりしたけれど、アスランは器用に仕事をこなしすぐに慣れてしまった。
その間、カガリがアスランをフォローしたのなんて2,3回だけだったんじゃないか、とカガリは思う。
部屋には誰もいない。今日の遅番はアスランとカガリの二人だけだった。
「今日来てたのは、友達?」
アスランがソファに腰掛けて尋ねてきた。
「あ、うん。大学の。あ、二人ともおまえのこと知ってたぞ。」
(一人は・・ミリアリア・ハウ・・ 確かディアッカの・・)
彼女だったな。とアスランは呟く。興味はないが、ディアッカの口からは毎日その名が出てくるため覚えていた。
「有名なんだな、アスラン。」
「それは君だって同じだろ?」
国際関係学部1年のカガリ・ユラ。入学した頃、同級の男子学生が騒いでいた。
学生ホールに現れるカガリにどれだけの目が向けられているか・・
「ん?」
純粋無垢なこの少女はそんなことを知らない。
アスランはそれが嬉しくてまた微笑んだ。
「そういえばアスランはどうしてここでバイトすることにしたんだ?わたしはここの‘ハニーパンケーキ’に一目惚れして・・」
自分のロッカーの中の着替えに手を伸ばしながらカガリは、食べものに‘一目惚れ’と表現したことに自分で笑った。
口に入れた瞬間広がった幸せな気持ち・・
ふわっと甘く仕立てられたそのデザートに感激して、バイト募集の貼り紙に飛びついた。
ガタッ
(ん?・・・)
ソファに座っていたアスランがいつの間にかロッカーに寄りかかって立っていた。
着替えを手にしたカガリがアスランの方を向くと、ゆっくりと口を開いた。
「君がここにいたから。」
「え・・・?」
「俺がここにバイトに来た理由・・」
カガリの手をアスランが荒く掴んだ。思わずカガリは着替えを床に落としてしまった。
アスランがカガリの体を押さえつける。
ロッカーの冷たい鉄版がガタガタと音を立てた。
「アス・・ラン?」
顔が近くまで迫っている。カガリはどうしてこんなことになっているか見当がつかない。
ただ相手を見つめるだけ。
怯える様子もないカガリの体にアスランはゆっくりと触れた。
フレイが掴んだ脇腹にそっと触れる。ふにっと柔らかな弾力が返される。
制服のサテン生地は手を這わすにはちょうど良い。脇腹からするりと手を上に動かす。
胸の膨らみにアスランの手が触れて、そこでやっとカガリは慌て始める。
「やっ、な、なにするんだよっ!アスっ・・ん」
「カガリがいると知ったからここに来たんだ、俺は。」
胸をまさぐりながらアスランはカガリの耳元にささやく。
息が吹きつけられてカガリの体に緊張が走る。
「や、なに・・言って・・」
自分がここにいたから、バイトに募集した?!
まったく意味が分からない。
それに、こんなことをされる理由も分からない。
困惑したカガリの表情を見て、アスランはにやりと笑った。
「キスしていい?」
「は?・・っ!!」
顔が迫って熱いものが唇を塞いだ。味わったことのない感触がカガリに襲いかかる。
目を開いたままカガリはアスランのキスを受けた。
「・・っんふ・・っ!な、なにするんだよっ!!」
「甘いな・・もう1回・・」
いったん唇を離したアスランはそう呟いて、もう一度口付けをする。
再びアスランの顔が近づくのが分かると、今度はカガリがきゅっと目を閉じた。
今度は、ゆっくりと優しく、気持ちを伝えるように・・・
★
後編は拍手が一定の数に達したら更新します♪
・・・というのは嘘ですけど
(笑)
最近、思うように書けないので温かい拍手があると嬉しいですが。
後半は裏なので(Rー15だけど・・)楽しみにしてくださいね。
ではでは。
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