暗い通路をカガリは進んでいた。
何も見えない中、頼るのは繋いでいる温かい自分を引っ張ってくれている手だけだった。
自分を逃がす、と言った男をどこまで信じていいのか分からない。
共に育った3人以外、人を信じないと決めたカガリだったが、先ほどの男の瞳に嘘や偽りは感じなかった。
考えることに気を取られ、つまずく。
すると男は歩みを止めて、大丈夫か、と優しく問いかけてくる。
そして再び少し早めに歩き出す。
(・・信じていいのか・・?)
カガリの心にアスランへの信頼の灯火が生まれた時、向かう先から人の気配がした。
それも一人ではない、複数の男の足音だった。
「もう気づかれたか・・?!」
アスランは一番近くの部屋のロックを解除して、カガリを部屋の中へ引っ張った。
部屋の中は通路と同じく暗く何も見えなかった。
ゆっくりとアスランが扉を閉めて不安げなカガリの体に腕を絡めた。
アスランの胸の中に収まったカガリはふと顔を上げる。
その顔が不安の表情をたたえていて、アスランは自然とカガリを安心させる言葉を探した。
「大丈夫だ、心配するな・・」
こくりとカガリは頷き、それから声を殺して男たちが過ぎ去るのを待つ。
「こっちだ、早くしろ!!」
数人の男たちを引き連れているのは、先ほどの男らしい。
その男の声がすると、アスランがち、っと舌打ちをする。
どうやらあまり望まない相手だったようだ。
通路を響く足音がだんだんと遠のいて小さくなっていく。
カガリを抱きしめるアスランの腕が緩んだ。
「すまない。思ったよりも早く気づかれた。行くぞ・・・」
そう言ってドアを開けようとするアスランの手をカガリは振り払った。
「カガリ・・?」
アスランは何が起こった分からずにもう一度手を差し出した。
しかしその手にカガリの手は触れない。
こんなところで時間をもて余すわけにいかない。計画が少しずつずれてきていることにアスランは焦りを感じた。
カガリの引っ込めた腕を無理矢理掴み取った。
「やめろ・・わたしを逃がしたらおまえまで狙われる!」
ぼそってカガリが発する低い声色が部屋に響いた。
「何を言ってる、早く!」
「離せっ、わたしは一人で行く・・」
そう言ってドアに手を掛けたカガリをアスランは引き留めた。
「君は・・一人で逃げられると思ってるのか?」
「いつもそうしてきた・・」
どんな組織に捕らえられても、一人でかいくぐってきた。
今まではそうして生きてきた。
それなのに・・・
差し伸べられた手を今回は取ってしまった。
このまま逃げて、万が一捕らえられた時、自分は殺されないだろう。
でもアスランは間違いなく命を失う。
運良く逃げ延びたとしても、アスランも組織から執拗に追われる。
これまで自分が生き延びるためには何でもしてきた。
どんな汚い力でも利用してきたし、直接人を殺めたことだってあった。
けれど、自分のためにアスランの命が危険にさらされるのは嫌だと思った。
なぜ-・・・
短い時間で考えても答えは出そうになかった。
困惑の瞳で自分を見つめるカガリにアスランは見とれた。
琥珀色はゆらゆらと光を放ち、暗闇でも神々しい。
その煌めきはアスランの意識を徐々に捉えていく。
カガリに触れている手が、腕が熱さを生み出す。
「おまえ・・・を、巻き込みたくないんだ・・アスラン・・」
少し開いた口から、かすれるような声が出る。
思ってもみなかった言葉にアスランはくらりと眩暈を感じ、無意識にカガリを抱き寄せ、きゅっと噛みしめられた口唇をふさいだ。
こんなことをしている場合じゃない・・・
アスハの娘が逃亡したことはもう建物全体に知れ渡っているだろう。
一刻も早くカガリを連れ、逃げなければいけない。
それはアスランも分かっている。
それでも、触れたカガリの口唇からアスランの体に甘い香りが伝わり、刺激となって体中に広がる。
初めて体を繋いだ時のように脳内が侵されていく。
口内を這うアスランの舌は引きぎみなカガリの舌を無理矢理に絡めとる。
「・・・んっ・・ふぁ!・・」
いつのまにか腕を後ろに回されて、体をドアに押しつけられていたカガリはたいした抵抗ができず、ただ口唇を奪われていた。
(な・・・急に・・?!)
薄く目を開けたカガリの前には、恍惚として自分を見る光を失った翡翠があった。
それは、‘アスハの宝玉’に魅入られた人間の虚ろな目だった。
自分の能力に耐性を見せていた男が、突然我を失ってカガリを求め始めた。
今の状況を考えるとこんなことをしている時間は1秒だって無い。
長い口づけから解放されるとカガリは必死でアスランを呼んだ。
「っ!・・やめろって!アスラン!!」
カガリの声が届かないのかアスランは腕の力を緩めようとはしない。
むしろぐっとカガリの体を押しつけて、首筋に唇を這わせ始めた。
「アスランっ!・・いっ!」
思いのほか強く肌を吸われ、カガリは痛みの声を上げた。
ぴりっと刺激のする箇所を今度はアスランの舌が優しく舐め上げる。
ぞくりと首を這う舌の感触にカガリの体は意外な反応を示した。
温かな舌の感触と、首にかかる熱い吐息がカガリの体の熱を呼びさます。
ん、とカガリが耐えられず声を漏らすと、舌はどんどんと降下を始めた。
つづく。
★
急に、裏が書きたくなったので!
続きすぐに書きます!
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