「ふん、やっとお目覚めか!」
(・・・・・・)
まぶたを半分開けたカガリの視界はまだぼやけている。
頭が重く普段の目覚めとはまったく違っていてカガリは2、3度頭を振る。
そんなカガリを見て近づいた男は鼻で笑う。
「何をしている。馬鹿か?そんな簡単にきれる薬じゃない。」
「…こ…こは…」
「これは驚きだな、話す余裕があるとはな。さすが、アスハの娘、だな。」
カガリは重いまぶたをなんとか開こうとするが自分の意思が体にうまく伝わらない。
横たわっている自分の前に男が一人いることと、
両手を後ろで縛られて自由が効かない、ということはすぐに察した。
不安定に揺れる視界に諦めて一度強く目を瞑る…
『…カガリ!!いやぁ!』
『カガリ様っ!!逃げ…』
『くそっ…これじゃ!』
(!!! ステラ、ルナ、シン…)
カガリの中の最新の記憶が呼び起こされる。
3人と落ち合ったホテルで突然襲われて……
今度はカッと瞳を開いて、カガリは琥珀を目の前の男にぶつけた。
「安心しろ。連れの3人は丁寧に扱ってる。 ……なにしろ大事な大事な人質だからな…ふふ」
「・・・・・・っ」
シン達3人のことを考えるとじっとしているしかない。
カガリは悔しそうにギリッと歯を鳴らした。
「こんな娘一人捕まえるのになんだって3年もかかったんだ?!」
男はソファに横たわって抵抗しないカガリの前に立つ。
アスハ家の娘・・・
皆が血眼になって探していた娘・・・
カガリからの鋭い視線を受けながら、頭のてっぺんから女の体を見回す。
(まだガキじゃないか・・・)
幼い面影をまだ残している顔は、女、というよりは、少女に近いと思った。
暗がりにも関わらず煌めく金糸のような髪を除けば、これといって魅力も感じられない・・・
そう思っていた男の目が止まる。
カガリの少し開いた襟元に視線が集まった。
(なに?!・・・)
首筋から広がる白い肌に吸い込まれるような感覚が男を襲う。
すっと手が伸びてカガリの髪をはねのけ、指が首筋に触れる。
滑らかな肌の感触は男を魅惑するには十分だった。
漆黒の深い海のような瞳は、うつろにカガリを見つめ、小さな体に男の手が這い回る・・・
「やめろ!!イザーク!!」
ドアがけたたましい音を立て、男の行動を制止する声が掛かった。
カガリに覆いかぶさろうとしていたイザークは聞き慣れた声で我に返る。
「・・・な、なんだ貴様は!!」
意識の戻ったイザークは自分のしようとしていたことに困惑しながらも、部屋に入ってきた男に向かって怒鳴る。
「やめろ、イザーク。その女の管理は俺が任された。」
「はっ?!いきなり現れてなんだその偉そうな・・」
「とにかく出て行け。後は俺が見張る。」
かつてのライバルの平然とした態度は何も変わっていない。
イザークはわなわなと震えだした。
「アスラン・・貴様・・のこのこ帰ってきたと思ったら・・その女はなぁ、俺が捕まえ」
「うるさい・・イザーク。文句があるなら上に言え。」
再びバンッと激しい音がして、イザークは姿を消した。
アスランはドアから目をカガリの方に移す。
捕らえられた時にかがされた薬物がまだ体に残っているはず。
それでも強いまなざしを失っていない・・
そんなカガリが痛々しく見えた。
「・・・大丈夫だったか」
「・・おま・・なん・で・・・」
アスランはカガリに近づき、静かにソファに座った。
顔にかかっている金色の髪を優しく払う。
そのままアスランはカガリの首筋に指を這わす。
イザークが触れたのと同じ所を・・・
(こいつ・・平気なのか・・?!)
自分に触れても乱れた様子を見せないアスランにカガリは驚いた。
しかもすでに2度も体を重ねているのだ。
それでも平常心でいられるなんて・・・
「・・うっ・・なに・・を」
アスランがカガリの背中に手を伸ばした。
カガリの手首にきつく縛られている紐をナイフで断ち切った。
「静かにしろ・・君を逃がす。」
アスランはゆっくりとカガリの上体を起こす。
カガリの腕はまだしびれていてうまく動かせない。
薬もまだ残っているようで頭がうまく回らない。
だからアスランの言葉をすぐに理解できなかった。
「・・・・?」
カガリはもう一度自分の耳を疑う。
わたしを・・逃がす?
「おまっ・・」
「こんなことはもうやめるんだ。君だって分かってるはずだ。このままでは君は・・・」
アスランはカガリの両肩を掴み、目を見つめて言う。
「わたしはっ、どうなってもいい!!お父様の、アスハの名が汚されたままじゃ!!」
不安定な精神で憤るカガリの瞳からは涙がこぼれる。
「・・・君がこんなことを続けていればあの3人も同じ道を辿る・・。分かっているんだろ?!」
「それはっ・・・」
自分を慕ってくれるかけがいのない3人・・
今だって一体どんな目に遭っているか・・
アスハ家の一員として育った3人がいたからカガリは生きていられた。
彼らに支えられ、慕われて・・
「・・ふっ・・・っ」
悲しくて悔しくてカガリの瞳から今度は本当の涙が溢れる。
ぼろぼろと止めどもなく出てくる粒をアスランは手で拭った。
「安心しろ。彼らは無事だ・・・ 彼らを逃がす手はずも済んでいる。」
不思議だった。
昔、父ウズミがくれた温かさと同じものをアスランから感じた。
カガリの体を覆っていた憎しみと復讐の念でできた殻がはらはらと落ちていく。
「行くぞ。」
まだ泣き続けるカガリにそっと手が差し出される。
カガリは、自分でも不思議なくらい、何ひとつ迷わずにその手をとった・・・―――
つづく
★
イザーク??
台詞が難しいなー
でもアスランとの絡みは楽しかったです。
ツンツンしていたカガリはやっと素直になりました。
アスランの愛の力で♪
web拍手キーワード:あいのちから
→最初、拍手設置してなかったんですけど、「あいのちから」って送ってくれた方がいたので!!
あ、ありがとうございます!
大好きです(笑)
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