『カガリ学校一人で来れる?やっぱり迎えに行こうか?』
「大丈夫だ。ちゃんと行けるから。心配症だなぁ、キラは。」
いくつか家具が増えた部屋でカガリは書類を眺めながら器用に携帯で話をしている。
実の兄‐それを知ったのはつい先日だったのだが‐から転校初日を心配されている。
『一応カガリとは遠い親戚ってことになってるから…』
「親戚 か…、わかったよ。色々迷惑かけてごめんな、キラ」
物心ついた時からカガリの傍にいたのは父だけだった。その父が突然この世を去り、戸籍に載っていた兄の存在を見つけて驚愕した。
その兄から連絡があったのはついこのあいだ。
『良かったらこっちに来ない?』
そう言って自分の通う高校へ誘ってくれた。
父ウズミと母ヴィア、2人のためにカガリとキラは“双子”というのを隠さなければならないけど、それでも近くに住むことに決めた。
(しっかし、キラのやつ。なんでこんな高校に通ってるんだ?!しかも生徒会長・・・)
学校紹介のパンフレットを見ながらカガリはため息を吐く。
生徒数の多いマンモス学校。その中でキラは特進クラスらしい。
試験を受けた結果、カガリは特進には入らなかった。そんな経緯があって、ほんとうに双子なんだろうか疑わしくなったけれど、一度会ってみてその疑問は払拭された。
顔立ちも、瞳も、手の先まで自分のものと酷似してた―・・・
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「あ・・・」
カガリがエレベーターに向かうと、前から2人歩いてくる。
「おまえっ・・・」
自分と同じくらいの歳の男女。男のほうは・・・先日助けた奴だった。
春先の冷え込む夜に玄関先で寝てた男。礼も言わずに去った無礼なやつ・・・
「なんでおまえここに・・・」
「いいだろう、自分の住むマンションにいたって。」
「はあ?!」
挨拶も無しにどこか無愛想な返事で、カガリは少しムッとした。相手の言葉がすぐに理解できない。
「アスラン、知り合い?」
一緒にいる女の子がカガリにぴょこっと頭を下げる。
その質問には答えずに、カガリの横をすっと通って二人は先に歩いていった。
わなわなと震えるカガリが振り向くと、2人は手前のドアを開け、部屋に入っていった。
?!
思わずカガリは駆け出し、部屋のプレートを見る。
―202-
(は?!あいつ隣だったのか?)
どこの誰かも分からない男を部屋に入れて一晩過ごした。冷静になって考えると、恐ろしいことをしたと思う。
でも、隣人だと分かれば・・・
なんとなく安心したが、すぐに無礼な態度を思い出してカガリは早足でマンションを後にした。
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「アスラン、さっきの子、誰?」
「・・・関係ないだろう。」
俺にも、おまえにも関係ないやつだ。そう言ったつもりだけれど、恋愛沙汰に興味深深の相手はそれだけでは終わらない。
「彼女がいるって聞いてなかったけど?」
「・・・・・。」
こうなるといちいち答えるのも面倒くさい。
「君は一体何しに来たんだ?!」
「あ、えっと、頼まれたのは・・・・」
本格的に冷たくなった男に少し慌てる。
(まったくつまんないんだから・・・ それにしてもさっきの子どこかで・・)
4へつづく
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