街道を進みながらアスランは質問攻めに合っていた。
それもほとんどの質問に答えられない。一定の間を空けてなんとか言葉を濁す。
「・・で、キラっていうのはどんな人なんだ?」
「・・・・君の兄だ。」
「それは分かったから!なんでプラントなんかにいるんだって聞いてるんだ。」
プラントまではいくつかの街と山を越えて徒歩では1ヶ月ほどかかる。
どうして肉親がそんな遠くにいるのか分からない。
「それに・・ 自分で会いに来ればいいだろ。キラ、がさ・・」
「それができないから、俺が・・・」
『アスラン。カガリには僕が王ってことは内緒だからね!』
アスランの脳裏に主君の言葉が蘇る。まずい、と思ったがカガリはそれ以上は聞いてこなかった。
代わりにアスランをじろじろと眺め回した。
「アスラン・・ その服、なんとかならないか?」
アスランが着ているのは丈の長い深紅の上着。そして同じ色の細身のズボン。どちらも上質な布で縫い合わされている。
一ヶ月の間、アスランもカガリと同じように一枚布でできた服を着ていた。その時の庶民の服よりも、今の服の方が似合っている。
アスラン自身が持つ気品を際立たせているし、アスランが言うように彼が軍人というのも頷けた。
「アスランがプラントの軍人っていうのは分かったけど、その服、ハデすぎる・・」
「軍人・・じゃなくて、‘騎士’なんだが・・」
アスランの頭には職務中だという考えがある。それにカガリをプラントまで連れて行くのに、プラント騎士であることを表に出した方が安全だと思った。
しかし、カガリの言うことももっともで、旅人が行き交う街道でアスランの格好は一人浮いていた。すれ違いざまに皆が視線を投げかけ、中には少し頭を下げていく者もいた。
穏やかな国民性のオーブはそれほど治安が悪くない。
アスランは次の街で服を調達して、着替えることに賛同した。
まもなくたどり着いた小さな町で、適当な店に入った。
暇を持てあましていた店の娘は、はアスランの服をさらりと選ぶと、今度はカガリの服に凝り出した。
「わ、わたしは、いいんだってば!」
「だめだめ、いくら旅行者だって少しはお洒落にしないと・・。それにそんな服は旅には向いてないし。」
娘はカガリを着替え室に放り込むと、ウインクをした。
カガリは仕方なく、渡された服を渋々と着始める。
漆黒の上着と若草色のズボンに身を包んだアスランは、カガリの着替えを待ちながら窓から外を眺めていた。通りを行く人々の中に怪しい人物がいないか目を光らせた。
オーブが安全だと言っても、どこに危険が潜んでいるか分からない。
それまでアスランが着ていた服を手にした店の娘が静かに近づく。
「あの、プラントの騎士なんですか?」
「え・・ああ、そうだが・・」
娘は心の中でガッツポーズをする。プラント騎士と言えば、貴族の中でも上流の家庭の男子しか選ばれない職種だ。
こんな田舎でそんなエリートを見つけて、娘は目を輝かせた。
「あのっ、行かないでください!」
娘は突然アスランの袖をつかむと、そう言った。
「は?・・・」
「わたしと一緒にここにいてくださいっ」
「な、なにを・・・」
娘の勢いにアスランは一歩引いた。
「何してるんだ?」
着替えの終わったカガリが誰もいない店内におかしく思いながらドアに近づく。
少し仰け反ったアスランと、すぐ傍にいる娘がその声に振り向く。
「悪い、遅くなった。これにしようかと思うんだけど、どうだ?」
娘が選んだものはどれもひらひらしていて、カガリは気に入らなかった。
娘がいなくなった後、着替え室の手前にかけてあった服を手にした。色味を抑えた紅い布地は柔らかく、動きやすそうだ。
ただ、裾がわずかに腿を隠す程度でその点だけが心もとない。
「なっ・・・」
アスランがすっとんきょうな声を上げる。カガリの格好はとても旅人のものとは思えない。むしろそれは・・・
「それって踊り子さんの服ですけど・・」
「ふぅーん、そうなのか。でもわたしこれが気に入った。」
「駄目に決まってる・・」
「なんでだよっ」
「これから山を越えたりするんだ。肌が出る服じゃ駄目だ。それに・・」
アスランの視線がカガリの太ももに移る。しかしすぐに視線を外した。
赤くなる顔を隠すように手を添える。
それを見ていた店の娘は、アスランを諦めた。自分がどんなに可愛く懇願してもこの客には通じない、そう思った。
カガリの踊り子の服と同じくらい肌を露出してる娘には目も向けないのだから。
そして、いい男を捕まえるという企みは商売精神に転じた。
「それに合うスカートもズボンもありますから。」
踊り子の服は比較的値が張る。
カガリはその金額を知って静かになった。
横からアスランがすっと金貨を娘に渡す。ありがとうございました~とにこやかに娘に送られて店を出た。
「絶対にいつか返すから・・」
「ん、気にしなくていい。キラから預かっている金だから。」
カガリの知っている限り、アスランの懐からはもう200ルゥは出ている。
「なぁ、キラって貴族かなんかなのか?そんなにお金あるなんて・・」
「まぁ・・そんなとこだ。」
「ふぅん、なんか想像できないな。そんな人がわたしの兄だなんて・・」
うつむいたカガリをアスランはじっと見つめる。
白い肌に朱紅い色がよく映えている。装飾は全て外したので、踊り子には見えないが、細かな金の刺繍が施された服はカガリの内なる気品を少し浮かべる。
(あんな暮らしをしていても、やはりカガリは・・・)
真実を知ったらカガリはどれほど驚くだろう。
血の繋がった兄がプラント王で、自分が王女だと知ったらどれほど驚くか。
そしてそれを伝えるためにはプラントで何が起こったのか詳細に伝えなければならない・・・
***********
薄い布幕が幾重にも掛けられた部屋にキラは足を踏み入れた。
少し暗めの部屋の中央に明かりが灯り、小さな机と椅子が一つずつある。
机の上には淡い光を放つ薄桃色の水晶があり、それを覗いていた人物はキラに気づくと振り向いて微笑んだ。
「アスランとカガリさん、こちらへ向かっているようですわ。」
「そう・・ カガリが幸せなら無理に連れてくるつもりはなかったけど・・」
生き別れになった妹をずっと探していた。思わぬ人物がカガリを保護していたと知ると、キラは安堵の息を吐いた。
「理由は分かりませんけど、ウズミさまに何かあったんでしょうか・・」
「うん・・。今それを調べてるよ。」
「ところでキラ。どうしてアスランを選んだのですか?アスランが抜けて騎士団の統率が崩れているようですわ・・」
「それは・・・消去法で。」
「え・・」
「シンは騎士としては優れているけど感情に走りやすいし、イザークは女性にも厳しそうでしょ。ディアッカは・・カガリが危ないし。ニコルはまだ若いし・・。そう考えると、アスランしか残らなくて・・」
幸いアスランは真面目だし、女の子にも優しそうだし。とキラは笑った。
薄暗い部屋で水晶の中が揺らめき、遠方にいるはずのアスランとカガリを映し出す。
アスランが旅立ってから様子を伺っていたラクスはあることに気づいていたが、それはキラがもっとも望まないことだ・・・。
しばらくは様子を見ようと黙っていた。
「・・そうですね。カガリさんにとって、アスランが一番適任だったかもしれませんね。」
ラクスの穏やかな笑顔に潜んでいる真意を見いだせずに、キラは部屋を出た。
宰相シーゲル・クラインの娘、ラクスはキラの婚約者で近々正妃となる。
(カガリのことも気になるけど・・ )
キラは重い足取りで城の通路を進む。
またイザークとシンが揉めているらしい。報告に飛んで来たニコルの話ではけっこうな剣幕で二人は暴れて、誰の手にも負えないらしい。
まったく・・と息をつきながら、キラは思う。
城内の些細な喧嘩に王であるキラが直接制裁に向かえる。それは国内が安定していて政務に余裕があるから可能なのだ。
十数年前に大きな戦争があったとは思えないほどプラントは平和になった。
キラは城壁から見える空を眺めると、まだ見ぬ妹を恋しく想った。
(カガリ・・)
もうすぐ日が暮れる。そろそろ今日の宿を決めなければならない。
足早に進んでいると、カガリが急に歩みを止めた。
「どうした、カガリ」
「・・うん、誰かに呼ばれた気がして」
「呼ばれた・・?」
カガリにそう言われてアスランは軽く顔を上げた。夕日の空は爽やかでどこにも怪しい気配はなかった。
(ラクスが見ているのか・・?)
「ごめん、アスラン。早く行こう・・ 昨日みたいに野宿は嫌だからな。」
「ああ・・・ 俺も、寝ぼけた君に蹴られるのはごめんだ。」
「だからっ、蹴ってないって言ってるだろ?!」
宿が取れなくて仕方なく草地に寝ころんだ。
朝方、寝ぼけたカガリの脚がアスランの頬にあたった。
あまりの衝撃にアスランは眉の間に皺をつくって、寝ているカガリを起こして何か言ってやろうと思った。
でも・・、カガリの寝顔を見た途端、怒りは不思議と消えた。
無邪気な寝顔はアスランの心に違う感情を起こさせた。
もう蹴られるのはごめんだし、あんな寝顔を見るのも困る・・・
アスランは少し早足で宿を探し始めた。
★
アスカガ旅路パロ。
タイトルと内容、全然合ってない気がするんですが・・・
(-_-;)
カガリの選んだ服は「英雄伝説」というRPGに出てくるルティスの衣装です。
マ、マイナー・・・
今回あんまり甘くなかったですね。
次回、もっと頑張りますv
楽しかった、という方はぽちっとお願いします。
キーワード:淡い恋
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