慌てて部屋を出たカガリの横で勢いよくドアが開いた。
「もうっ、いい加減にして!」
ドアを押すミリアリアにディアッカの顔が迫っていた。
それを両手で防いだミリアリアは廊下のカガリに気づくとディアッカの手を振り払って親友の元に寄る。
「まったくつれないな…」
残念そうに呟いてディアッカは部屋に引っ込んだ。
「いいのか…?」
ミリアリアにしては強硬な態度だと思う。
現に、ディアッカは傷ついたような顔をしていた。それでもミリアリアはずんずん歩いて行くので、カガリは慌てて追いかけた。
「すぐ調子に乗るんだから…! 実験中いくら暇だからって変なことばっかりしようとするのよ」
変なこと…、というのは恋人同士がするふれあいのことを指しているのだと、話の流れから推測できる。部屋を出ようとするミリアリアにディアッカはキスをしようとしていた。
「あんな場所で、信じられないっ」
「……」
二人はれっきとした恋人同士だからまだいい。自分に強いられた行為を思い出してカガリは暗い気持ちになった。
友人に相談したいが、噂になって広まるのは望まない。アスランももう二度としないと約束してくれた。でも体に刻まれた記憶は消えない…
理学部棟を出て中庭を歩く頃にはミリアリアの機嫌も直っていた。
「カガリは?」
「え…?」
「実験中、どうだった?アスラン・ザラとどんな話してるの?」
「あ…、 バ、バイトのこととか、大学の話とか…そんなことを」
嘘を吐くのは苦手だが、どもりながらそれらしい答えを口にする。
…本当はまともな話なんてしていない。
昨日の記憶はあまり無いし、今日は廊下でいたたまれない思いを抱えながら過ごした。
「ふーん、そう…」
ミリアリアがじっとカガリを見つめ、好奇心を帯びた視線を投げかける。
「ミリィ…?」
「ディアッカがね、絶対にそうだって言うのよ」
「…? なんだ?」
「アスラン・ザラは、カガリに気があるって…!」
チュンチュンとさえずる鳥たちが少し恨めしい。
夜明け頃から鳴き始める彼らの声で眠りからますます遠ざかることになった。
カガリは瞼に重い違和感を感じながらリビングへ向かう。まだ起きるのには早いが、これ以上ベットの中にいても辛いだけだ。
『毎朝、ディアッカの横からカガリを見つめてるんだって…』
『バイトなんてしなくても十分自由なお金はあるんだって。ほら、ザラ氏って有名でしょ?代議士の。なのにカガリを追ってあそこでバイト始めたんだって…』
『今まで合コンにまったく興味を示さなかったのに、今度のだけは参加するんだって。カガリも行くでしょ、学部の交流合コン…』
ふらつきながら煎れたコーヒーを口にして、リビングの椅子に座りテーブルに頭を投げ出した。
昨日も、今日も、ほとんど眠れなかった。
その原因は…、アスラン・ザラ。
(あー、もうー…)
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