濃紺の髪の男は、扉の錠をカチリ開けると静かにドアノブをまわす。
(待ち望んだ瞬間だ・・・)
独房に捕らえていた女はベットの上でうずくまっていた。
一週間、食事以外に誰も訪れなかったこの部屋で女が何を考えていたか興味はなかった。
アスラン・ザラは冷静な彼にしては珍しく緊張して、女に近づいた。
女の名はカガリ・ユラ・アスハ。
この国の裏社会を牛耳るアスハ家の一人娘だ。
3年前、突然アスハ家の総帥だったウズミが命を落とし、それまでアスハ家が握っていた数々の情報は闇に消えた、と誰もが思った。
しかし、秘密とはどこからか漏れるもので、総帥のウズミが隠蔽していた“娘”の存在が明らかになって、皆、血眼になって娘の行方を捜している。
アスランもまた組織からの命により、ずっと娘を探し続けていた。
それまでなんら苦労することなく仕事をこなしてきた彼が、アスハの娘に対して費やした期間は3年。
(まったく手こずらせてくれたな・・・)
アスハ家の握っている情報は破格の値がつく。
それに加え、“アスハの宝玉”という家宝に関しても娘が何か知っているに違いなかった。
見た者を魅入らせる、という“アスハの宝玉”についてはまだ誰も確かな情報を得ていない・・・
うずくまったままの女の髪に触れる。
さらりと金糸が落ちる。
「カガリ・・」
アスランが名を呼ぶと、女はゆっくりと顔を上げた。
眉根を下げ、不安げな表情で。
独房に入れられた女はみんなそういう顔になる。
光の当たらない部屋で時間の感覚も失い、日に日に不安が増すのだろう。
食事に盛られる自白剤も女たちの感情をゆるくする。
アスランがこれまで相手にした女は、・・・ 財閥の令嬢だったり、政治家の愛人だったり・・・ 優しく名を呼べばすがるような瞳で自分を求めてきた。
そしてさも愛があるように激しく抱くと、女は簡単に秘密を吐いた。
そんな女たちと同じような視線を送られてアスランは苦笑いをする。
(あっけないな・・)
そして、女の体をまとっている薄い一枚切れの布をはいで包み込むように抱きしめた。
途端に「あ」と淡い声が女の口から漏れる。
「さびしかったか? もう大丈夫だ・・」
ふるっと女の体がその言葉に反応する。そして、かよわい力で抱き締めてくる。
暗闇で感じる女の肌はなめらかで、これまでアスランが相手にした女の中でも極上の感触だ。
(これは違う楽しみもあるかもな・・・)
待ち望んだアスハの情報と、男の悦びを同時に手に入れられそうでアスランの胸はドクンと高鳴る。
彼は着ていたスーツをするりと脱ぐと、子犬のように震えた体を激しく求め始めた。
「はぁっ!・・・ふあんっ!・・あっふうっ・・んっ!」
アスランが律動を強めると、女は仰け反って喘ぐ。
目の前の胸がぶるぶると揺れて思わずしゃぶりつく。
乳首は硬くツンと主張して、舌で転がすアスランの舌にも刺激が跳ね返る。
がくがくと揺れる女の腰を持ち下からいっそう激しく攻める。
予想どおり、女の体は極上で、気を抜けばアスランの思考も奪われそうになる。
「・・はっ・・・・・」
「ぁんっ!あんっ・・やあっ!・・」
行為が激しくなるにつれて、自身を締めつける力を感じてアスランは顔を歪める。
あまり男との交わりが無かったようで、初めから狭かったソレはきゅうきゅうとしごいてくる。
アスハの娘は、幼い顔とは裏腹に妖艶な体つきと甘い声でアスランを十分に楽しませてくれている。
そんな彼女は既に何度も登りつめたようで、口はだらしなく開いて、瞳はうつろに空を見つめている。
女の状態を確認すると、アスランは最後を迎えるために汗を散らしながら腰を打ちつけた―・・・・
「はぁぁぁんっ!」
叫び声を上げてぐったりと力の抜けた体をアスランはとっさに腕で支える。
これからが正念場だ。
快感で染まっている意識に呼びかけるように尋ねれば、彼の知りたいことが聞けるのだから・・・
その肝心な問いは、女を安心させるような優しい声色でないといけない。アスランは乱れた呼吸を直すために間をおいた。
いつもの任務とは違ってアスラン自身も楽しんだ今回の営みは彼の息を整えるのにいつもより時間がかかった。
「カガリ・・・」
うなだれた頭を優しく上げてやる。
見つめてこれ以上ない優しい声で囁かなければいけない・・
しかし、その後で続けられる言葉はアスランの口から出ることはなかった。
突然、アスランの体に電流のような痺れが走る。
びくびくと体が震え、その刺激に思わず彼は驚愕の声をあげる。
「なっ・・ん・だ・・」
動かない唇からやっと言葉を紡ぎ、体を麻痺させる何かに対して翡翠の瞳をカッと開いたが、アスランにできるのはそこまでだった。
(か、体が動かない・・・ )
女と繋がったまま、左腕で女の頭を抱えたまま、アスランは指一本も動かせなくなった。
(なぜ・だ・?! )
理由が分からず、焦りの色を浮かべる瞳に女の顔が映ってゾクリと背中に悪寒が走る。
悦びで恍惚の表情を浮かべていると思われた女は、まったく余裕の表情でアスランを妖しく見つめた。
あんなに乱れていた息もいつのまにか収まっていて・・・
「・・・ぅぐっ・・・」
言葉の一つすら発することのできない男に、女はにやりと笑った。
「しばらくは動けない・・ おまえの体も心もわたしのものだ・・」
近づいた琥珀の瞳が爛々と輝いている。
「な・・ん・・だと・・・・」
「“アスハの宝玉”を抱いた気分はどうだ?アスラン・ザラ・・」
動かない男の体から繋がっていた部分をずるりと離して、すくっとその前に立つ。
体の自由がきかないアスランだったが、なんとか頭を上げた。
目の前の女の足の先から髪までが視界に入り、くらりと眩暈を感じた。
(魅せられる・・・ こんな・・)
「アスラン・ザラ・・ お願いがあるんだ・・」
女にしては低い声だが、甘さを含んだ不思議な声。
それはアスランの聴覚を犯し、脳内をざらりと舐めるように響く・・・
「わたしを逃がしてくれ・・」
脳が女の言葉に従うように命令を送る。
しかしアスランは歯をくいしばりそれを拒否した。
体はどちらに従っていいのか分からずに震える。
「・・さすがに強情だな。敏腕な噂だけのことはある・・」
大抵の男はカガリと交わればすぐに彼女の虜となる。
それが生まれつきの能力なのか、父ウズミの仕込んだものなのかはカガリには分からない。
ただこの力のおかげでこれまで逃げ延びてきたのだ。
自分をわがものにしようとする男たちを魅入らせて・・・
「では、これではどうだ・・」
閉じることも開くこともできなくなったアスランの唇にカガリはねっとりと舌を挿し入れた。
これだけでも意志の弱い人間なら操れるのだ。
口内に舌を這わせてアスランの舌を絡める。動けないはずのそれはカガリを求めて動きに応えた。
それを感じるとカガリはゆっくり口唇を離し、もう一度甘い表情でアスランに願いを伝える。
「アスラン・・」
びくっとアスランの体が震え、一瞬で彼の脳は真っ白になった。
「わたしを逃がしてくれ・・・」
目隠しをされて連れてこられたビルの裏口からカガリは堂々と外に出た。
地下の部屋からここまで複雑な道になっていて、思ったより時間がかかったが、その間アスランから組織の内部情報などを聞き出した。
意志の強そうな男の口から、さらりと情報が飛び出てカガリは思わず彼に同情した。
深夜、ビルから離れる女を見つめている男。
きりっとスーツに身を包んだ男ははたから見れば女を見送っているように見える。
カガリは命令どおりにたたずむアスランの視線を感じて、振り返り彼に近づく
少し背伸びをして薄い口唇にそっと触れた。
「アスラン・・ もうわたしを追うなよ・・」
焦点の合っていない瞳を切なげに見つめ、カガリはアスランから離れる。
そうして二度と振り返ることなく暗やみに消えていった。
つづく。。。
★
突発的妄想第3弾。
余裕のザラさんがいつのまにかカガリに堕ちちゃった、って話を書きたかったんです。
アスランはこの後、ビルの出口で意識を取り戻します。
「はっ!」とか何とか声を上げて。
もちろん懲りずにカガリを追います。
心も体もカガリを求めてやまないから。
「追うな。」って言われたのにね(笑)
皆様の反応が怖いんですが、
お気に召しましたらぽちっとお願いします。
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