5月―・・・
編入したての何日かは緊張していたカガリだったが、このころにはもうすっかり新しい高校の雰囲気に順応していた。
もともと人見知りなどしない性質のカガリにクラスメートも親しみやすく、何人か友人もできていた。
今も友人に付き合って次の授業の資料を運んでいる。
「ごめんね~、カガリ手伝ってもらちゃって。」
「んしょっっと。」
カガリとマユラは視聴覚室から大量の本と、巻いてある大きめの地図を運び出す。
「それにしてもさ、アーサー先生ひどくないか?!こんなたくさん持ってけだなんてさ!」
「うん、ちょっと多いかもね・・」
地理の先生を恨めしいと思いながらも、カガリとマユラは廊下を進む。
腕の中に積まれた本で前がよく見えない。
顔を左右どちらかに寄せて前方を確認しながらゆっくりと歩いて行く二人。
3年の廊下へさしかかると狭い視界の中にカガリの知っている人物が映った。
アスラン・ザラ・・・
アスランに「俺に関わるな。」と言われて以来、学校で会ってもお互いに知らないふりをしている。
住んでる部屋が隣ということで、多めに作ってしまった料理を何度か持っていったことはある。
それだけの関係―・・・
そのアスランが前方から歩いてくる。
後ろからミーアに追いかけられて。
(まったく飽きずによくやるよな・・)
初日にカガリに尋ねてきた女子は生徒会の書記で学校でも有名な子だった。
キャンベル家のお嬢さまで、アスランのことが好きらしい。
アスランのことしか頭に無いミーアが、カガリとキラの関係に気づくはずはないのだが、カガリはあれ以来ミーアを避けている。
アスランとミーアとの距離がだんだん近づく。
カガリは積まれた本に顔を隠した。
「アスラン、待ってよぉ・・」
駆け寄るミーアになんの返事もしないままアスランはカガリの横を通り過ぎようとした。
その時、ミーアがアスランへ手を伸ばす。
しかしアスランにすっと避けられてしまい、ミーアはそのままなにかぶつかった。
「きゃぁっ」
「うわっ!」
バサバサと本が床に落ち、バランスを失ったカガリも倒れそうになる。
体を支えようと無意識に足を踏み出すけれど・・・
踏み出した足は本を踏んでしまう。
グキッと小さく足首が鳴った。
(うっ・・・)
「カガリ!大丈夫?!」
持っていた資料を床に置いてマユラが駆け寄った。
「うん、平気だ。少し足ひねったかも・・」
カガリが違和感のある足首をさすった。
「やだ、ごめんなさいっ」
それを見たミーアは申し訳なさそうに謝った。
「たいしたことないから、平気だ。わたしも前をよく見ていなかったし・・」
物音を聞きつけて生徒が廊下に集まってきた。
クラスメートのアサギとジュリも駆けつけ、床に散らばった本を拾う。
ゆっくりと起き上がったカガリは片足がうまく体を支えられないことに気づく。
(ねんざ・・かな・・)
「カガリ、大丈夫?」
「ん、ちょっと保健室行って来る。」
「わたしも付いて行くよ。」
「たいしたことないから大丈夫。もう授業始まるし、先生に言っておいてくれ・・」
『軽いねんざね。』保健の先生にそう診断されてカガリは早退することになった。
教室から鞄だけ持ってきてもらって、タクシーで帰ることになった。
(うーん、だんだん痛くなってくるな・・)
転んだ時はあまり痛みは感じなかった。
時間がたつにつれてずきずきと痛み、感覚を失っていく。
タクシーがマンションに着く。片足をかばうように車から降りたカガリは、玄関から自分の部屋までがやけに遠くに感じた。
(やっぱり松葉杖借りれば良かったか?!)
ここから階段と、2階の廊下・・・
いつもならなんてことないが、今は道のりが険しく感じる。
その時すっとカガリの前に制服姿の人物が現れた。
「痛むのか?」
「アスラン・・?!」
「鞄、持ってやる・・・」
なんでアスランがここに?
まだ授業中・・・
「いいよっ、自分で持てる。おまえ、授業は・・」
返事はない。
ただバツの悪そうな顔をして、カガリの鞄をすっと取った。
「痛いのか?」
「少し・・ でも、歩けるから・・」
怪我した足を床に付けて、大丈夫なところをアスランに見せようとしたが、ズキッと痛みが走りカガリはよろけた。
「いたっ・・・」
「おいっ!」
それでもまだ大丈夫、と言い張るカガリにアスランが呆れる。
「まったく強情だな・・・」
「う、うるさいなっ!・・わぁっ!」
よろけたカガリを支えていたアスランの腕がぐいっとカガリを持ち上げた。
「な、なにするんだっ?!おろせ・・」
「部屋まで我慢しろ。」
カガリを軽々と両腕で抱えて、手には二人の鞄を持ってアスランはそのまま階段を上がる。
(まさか・・コイツ自分のせいだと思ってるんじゃ・・)
ミーアがカガリにぶつかったのは自分がミーアの手を避けたせいだと・・
運ばれながら、カガリはそんなことを思う。
そのまま部屋の前まで運ばれて、ゆっくりと下ろされる。
「鍵は?」
「え、あぁ、鞄の・・」
アスランから鞄を受け取って中を探る。
「あれ・・ えっと・・・」
中にあるはずの鍵がない。
記憶をたどってカガリは声を上げた。
「あーー!机の中だ!」
「・・・なぜそんなところに・・」
「いや、だって、キラが誰にも分からないように保管しろって・・・」
「・・・・・。」
呆れた視線を送られてカガリはへへっと笑う。
「まったくっ・・・」
アスランは自分の部屋のドアを開けると再びカガリを横抱きにした。
「ちょっ・・・」
「うるさいっ・・鍵を取ってくるから、とりあえずここにいろ。」
そういってカガリを抱えたまま部屋に入ると、リビングのソファにカガリを座らせた。
そして、ドアを荒く閉めて出て行った。
「・・・・・・。」
他人の家でどうしていいか分からないカガリはしばらくソファに座っていた―・・・・
★
アスランは冷たい仮面をかぶっているけど、本当は優しいんです。
カガリが転んだ廊下は他の生徒がいたから、手を出せなかった。
それにそんなことをしたら、ミーアorその他女子に後日カガリがいじめられるから・・・
キャーー!!!
姫抱っこ///
これが書きたかった!
さりげないアスランの優しさと、強引な姫だっこ☆
うまく表現できたかな、どきどき・・・
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